本当の明るさ

今から35年前になりますが、我が家は全焼しました。

不幸中の幸いと言うべきか、全て燃えましたが家族全員誰も怪我した者はおりませんでした。

今でも、鎮火後に訪れた焦げた臭いを思い出しますが、

未だ幼かった私は『僕のおもちゃが全部燃えちゃった』と呟きました。

ミニカー特にバスが大好きで集めていました。

『金で買えない物は何も失ってない、直ぐに取り返してやる』と父が私に言ったことを今でも思い出します。

全てを失い、電気の通らない再出発の家で段ボール箱をひっくり返してローソクに明かりを灯しました。

物が何も無い家で『何も物がないと声が響くなワッハワッハ』と父が笑いながら夕飯を食べているのを見て、母も私も笑い、皆で笑いました。

不思議と物が無くなった悲しさや寂しさはありませんでした。

家の中は暗いのに、あんなに気持ちが明るかったことはありませんでした。

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